“声帯の動き”に着目した、自然に、楽に声が出せるようになる発声法

腹式呼吸では解決できない問題をどうするか

皆さんは、歌を歌うときに先生から「お腹を膨らませて横隔膜を動かしましょう」「腹筋を鍛えて、お腹から絞り出すように息を出しましょう」と言われたことはありませんか?

ええ、私も小さい頃からつい最近までそれを頼りに生きてきました。「何よりもお腹が命!」と素直に思い、トレーニングを続けてきました。

 もちろん、腹式呼吸は主に声楽に於いては大事な技術ですし、それ自体が悪いことではないのですが、学生時代からずっと抱えていた「息が続かない」「高い声を出す時の苦手意識」「音程を低くとってしまう(ぶら下がる)」「声が震える」などの悩みを、腹式呼吸をいくら頑張ってもすっきりと解消できることはありませんでした。学生時代は音声生理学など、声の出る仕組みについても勉強していましたが、それをどう歌声に生かして良いかわからず「私はこれ以上うまくならない、きっと私は歌に向いていない」と思い、歌に関わることをしばらくやめていた時期もありました。

それでも、歌のお仕事をいただくようになったことから、もう一度勉強してみようと思い、色々なレッスンを受けるうち、この発声法を習われた先生に出会い、現在の発声法の基礎を学びました。

声帯を訓練することにより声が安定する

それが「声帯の周りの筋肉を鍛える」そして「お腹に力を入れなくても声が出せるようになる」発声法でした。え、声帯の周りの筋肉って鍛えられるの?お腹に力を入れない?そんなことできるの???最初はハテナの連続でしたが、説明を聞いていくうちに、非常に合理的な発声法であることがわかってきました。

 訓練されていない声帯に、いくらお腹に力を入れて大量の空気を送り込んでも、ザーザーと空気が通過するだけでうまく触れ合うことができず「息漏れする・音程が不安定になる、腹筋と連動して喉にもに力が入ると、結果として喉を締めてしまう」などの弊害がある

では、どうすれば良いのか↓

まず不必要な力を入れる癖をエクササイズによって根気よく取り除き、その後「音が生まれる部分」である声帯と周りの小さな筋肉を鍛えていく。舞台など生声で響かせる技術として初めて腹式呼吸が必要になるが、まず声帯を訓練して、健康的な発声をすることが先…

つまり、私の抱える悩みには、腹式呼吸が必要なかったんですね…その後、この理論に基づいたエクササイズをすることにより、ようやく上に挙げたような問題をおおむね解消することができました。もちろん歌っている限りトラブルはありますが、少なくとも自分でメンテナンスをする指針ができたのは、指導する立場としても、歌う立場としても、私にとって大きな自信になりました。

ユナイテッドボイスについて〜「組み合わせる」ことにより、多彩な表現のできる声を目指す〜

この発声法により、最終的に目指す声の状態のことを“ユナイテッドボイス”と呼んでいます。声楽に近い響きを重視した声と、ポピュラーで使う金属的な強い声を別々に訓練していき、それを色々な配分で組み合わせることによって、自分で考えた表現が自由にできるようになることが目標です。

地声と裏声を混ぜ合わせた「ミックスボイス」という考え方がありますが、それをさらに進化させ、「混ぜる」のではなく「組み合わせる」ことを目的としています。組み合わせるだけですので、理屈としてはそれぞれの音色を使い分けられる声になれますので、ポピュラーの方にも、声楽の方にも、また、声を出す必要のある方全てにお奨めできます。

ストローエクササイズについて

上記発声法と併用し、ストローを使用したエクササイズも必要に応じて行っています。これは、アメリカの音声学者Dr.Ingo R. Titzeが考案・ボイストレーナーMindy Pack氏が音声学会で発表した「ボイスストロー」のメソッドで、歌だけでなく音声障害の改善などにも使用されるものです。森宏子先生(下記参照ください)よりお伝えいただき、私もエクササイズに取り入れております。エクササイズ自体はとても簡単ですので、どうぞ興味のある方はお問合せください。

解剖学の重要性について

私が歌の勉強を始めた高校生の頃は、とにかく練習!お腹を動かしながら、先生にOKがもらえるまで練習!といった「根性論」「感情論」での練習がメインでした。大学に入り、当時新設された「音声生理学」を受講しました。今考えると”初歩中の初歩”といった内容でしたが、それすら知らないその頃の私には、歌うための指標をいただき、少しだけ成長することができました。歌を歌うには、体の動きを論理的に知ることが”私にとっては”必要だと痛感した最初の頃です。

しかし、初歩の内容を学んで以降、卒業後特に知識の更新をする機会が無く、特に指導をするようになってからは、もっと指導に役立つ詳しい解剖学を学びたい、と心から渇望していました。

そのような悩みを抱えながら、様々な情報に触れるうち、最近はありがたいことに、日本でも音楽に関する解剖学が学べる場が出てきていることを知り、少しずつセミナーを受講していました。現在は、自宅での介護の傍ら、解剖学の山本篤先生の動画セミナーを受講しております。

解剖学を学ぶことにより、現在の発声法の解剖学的な意味の強化、また他の発声法では何を強調して学んでいるのか、という「共通言語」の理解、自分で歌う際に何に気をつけて練習するのかを具体的に理解し、何より生徒さんにお伝えしたいと思っております。今後、生徒さんへのレッスンの中で、随時活かして参ります。

  • 上記を踏まえた上、現在も私は、「ナチュラルボーカルアカデミー」を主宰されている森宏子先生に声のメンテナンスしていただいています。森先生はロサンゼルスのLA Music Academy (現LA College of Music)で当時ボーカル科の長であったケビン・レトー氏のもと、この発声法を習得され、日本に帰国後もこの発声法を伝えるために精力的に活動されています。ストローエクササイズについても、どなたにでも簡単に出来る方法をいち早く取り入れ、私たちにも伝えてくださっっています。(森先生のHPもよろしければぜひ、ご覧ください)また、後進育成のため「指導者養成コース」にも力を入れておられます。私もボーカル講師を続けながらこのコースに参加し「準認定講師」になりました。引き続きこの発声法と指導法についての知識を深めるため、勉強を続けております。私のレッスンでも、この発声法をベースに、皆さんをサポートいたします。